15.「あさかやま」の歌(2)


    安積香(あさか)山、影さへ見ゆる、山の井の
    浅き心を、わが思はなくに


この「安積香」には、エコ−として少なくとも古いトルコ語の三つのコトバがあると考えられるの。

(「エコー」については、「記事一覧」にある第5回目の「エコ−と仮名二音とセリ(芹)」を見てね。)


「安積香」は普通「アサカ」と読んでいるけど、「積」は呉音で「シャク」で、「安・積・香」は「ア・シャク・カ」だから、これは「アシャッカ」と読ませたいのでは、と前回書いた。


この歌には前に話した「ウチ」と数の「三」の掛かりもあるので、そこから話しを始めることにする。(「ウチ」と数「三」のことの説明は、第7回目の<「ウチ」=数「3」のこと>にある。)



万葉集でこの安積香山の歌の由来の説明文にある娘子(をとめ)の仕草が、磐鹿六雁(いはか・むつかり)の場合と同じく大事で、歌と振舞いとが一体になっている。そして、その振舞いの方で、


「(之を)王(おほきみ)の膝に撃ちて」の「撃ち」の「ウチ」と、そして「(右の手の)水」とは掛け合っている。


つまり、数の「三(ミ)」や「三つ(みつ、みっつ)」と「ウチ」(撃ち、打ち)とは互いに掛かりの間柄だけど、その「三つ」の「みつ」を、ここでは「つ」を濁音にして、「みづ(水)」としているの。


西行法師の歌に、


   影をさやかにうつ(映)しもて、
   水鏡(みづかがみ)見る、女郎花(をみなへし)かな


とあるけど、その「うつし」(映し)の「ウツ」が「ウチ」にあたり、やはり「水鏡」の「水」(ミヅ)に係っている。(この歌は、「夫木和歌抄」(ふぼくわかしょう)という歌集にある。この歌集は万葉集以後のさまざまな撰に漏れた歌を集めたもの。)

      
あさかやまの歌では、仕草のその「ウチ」(撃ち)は、同時に又、歌の方の「影さへ見ゆる」の「見(ミ)」にも掛かっている。これらは、「ウチ」と「三(ミ)」の方の掛かり。


万葉集でこの歌の由来を説明して「撃之王膝」とあるところは、普通読まれているような、ただ「王の膝を撃ちて」という風にではなく、「之を王の膝に撃ちて」と「之を・・膝に・・」という風に読んで見る。


すると、茂吉が、「種々の疑問を起こしているが・・、水を持った右手で王の膝をたたくのではなかろう」と書いているそのあたりのことは、「膝、ヒザ」と「肘、ヒヂ」とが音で通い合うということと、そして以下のことから、「右腕」の「肘(ひぢ)」で打ったのではなかろうか、と考えてみる。



古いトルコ語で「アシュック」(ashuk, ="aşuk")というコトバがあるの。(以下、括弧の中はトルコ文字での綴り。「s」の下にヒゲが付いたような「ş」は「sh、シュ」の音。)


  Tk. 「アシュック」(ashuk ="aşuk") , 
       = 足首の関節。指の骨。肘(ひぢ)の骨。
        (四足動物の後脚の)膝、すなわち飛骨。


つまり、トルコ詞「アシュック」は、人、動物の四肢の各部位の関節の意味がある。

「肘鉄砲」(ひぢでっぽう)とか、その略である「肘鉄」(ひぢてつ)という云い方があるけど、「鉄砲」の時代的なことからして、戦国時代の頃も、「肘で撃つ」ということがまだ理解されていた、ということになる。



その「アシュック」と同音で異義のコトバがあって、こちらの方は動詞だけど、


  Tk. 「アシュック」( ashuk-, ="aşuk-")、思い焦がれる。


これはもちろん「浅きこころを我が思はなくに」に掛かっている。(ハイフォンは動詞の活用があることを示す。)



そして、下のコトバもまたエコ−としてあると考えられるの。


  Tk. 「アシャック」( ashak, ="aşak")、食べること、食物。


このコトバは、動詞ashā-(=aşa:、アシャ−。「: 」は長母音の印)の「食べる」「楽しむ」という義から出ていて、更にこの動詞は「食べ物」の義の名詞āsh(a:ş、ア−シュ)から出ている。

万葉集の説明文は次の様にしるしている。


    楽飲すること終日(ひねもす)なりき



そんなところなんだけど・・・


ところで、「水商売」という言葉があるけど、「お酒」のことを昔は実際に「ミヅ」と呼んだ。このことはギリシア語で「酒」の義であるコトバが methu(メツ)であることから来ている。そのthは、英語でthin(シン、=薄い)という時のそのthの発音に近い。


「メチルアルコ−ル」はmethyl-alcoholと書くけど、そのmethylは「酒」の義のそのギリシャ詞methuから来ている。ギリシア語のu(ウ)はラテン語に翻訳される時にYでもって表わされたといういきさつから、英語のmethyl-という綴りがある。


だから、説明の文にあるその娘子の仕草で、右手にある「水」の「ミヅ」は、その音から義でもって「お酒」に結んで、その「サケ」(酒)を通って「あさか」の「サカ」に掛けている、というところもあるの。